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東京地方裁判所 昭和41年(モ)17924号 判決

申立人 石野達夫

被申立人 石野まつ子

右訴訟代理人弁護士 尾崎重毅

主文

本件申立を却下する。

訴訟費用は申立人の負担とする。

事実

申立人は「東京地方裁判所が同庁昭和四一年(ヨ)第五六二一号仮処分命令申請事件について同年七月八日なした仮処分決定はこれを取り消す」との判決を求め、申立の理由として、申立人は右仮処分事件につき同庁同年(モ)第一五、六二〇号をもって起訴命令の申請をし、同命令は昭和四一年八月二六日被申立人に送達された。しかるに被申立人は、所定の期間を徒過して現在に至るまで本案訴訟を提起しないから本申立に及ぶ、と述べた。

被申立人は主文第一項同旨の判決を求め、答弁として申立人主張の日に起訴命令の送達を受けたことは認めるがその余は否認する。被申立人は申立人を相手方として昭和四一年八月一五日東京家庭裁判所に離婚等の調停を申し立て同事件は同庁昭和四一年(家イ)第三八五四号事件として現に係属中であり、同事件が本件の本案訴訟にあたるので申立人の申立は理由がない、と述べた。

申立人は被申立人主張のとおり東京家庭裁判所に離婚等調停事件が係属中であることは認めるが、調停事件は仮処分の本案訴訟たり得ないし、右事件は離婚事件であって、本件仮処分の被保全権利との間に請求権の同一性を欠くから本件の本案訴訟にあたらないと、述べた。

理由

申立人主張の日に被申立人に起訴命令の送達がなされたこと右起訴命令送達以前から被申立人申立による離婚等調停事件が東京家庭裁判所に係属中であることは当事者間に争いがない。

そして離婚等、家庭に関する事件について訴訟を提起しようとする者は、家事審判法第一八条により、まず家庭裁判所に調停を申し立てねばならないことになっており、たとえ直接訴を提起しても調停に付されるのであるから、調停に付されるのを承知で訴を提起せねばならぬとするのは迂遠であり、むしろ右調停の申立自体が民事訴訟法第七四六条の本案の提起に該当するというべきである。

また本件記録に徴すると本件仮処分の被保全権利は離婚を前提とする財産分与請求権であるから、右調停事件と全く同一の事件であること明らかである。

結局本件申立は理由がないことになるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 北沢和範)

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